このページは、ダイナミックラボの活動の一つである Precious Plastic Japan(略称PPJ)についての総括ページです。
目次
1. 個人でできるプラのリサイクルプロジェクト「Precious Plastic」
オランダから始まったプラスチックリサイクルのオープンソースプロジェクト、PreciousPlastic.
このプロジェクトにおそらく日本で一番最初に加わったのが当ダイナミックラボです。
1-a. 日本の Precious Plastic のはじまり
2016年8月に私(ダイナミックラボ代表テンダー)がシュレッダー(ハラダ精工製)を導入したのを皮切りに、2017年にインジェクションマシンを自作。
創始者のDave Hakkensさんから、 絵文字混じりで代表認定(きっと深い意味はありません)してもらいました。
2019年にエクストルージョンとアイロンプレスを自作、PP・PEからのアクセサリー製作を開始し、同年10月にはアルミゴミからの金型製作まで到達しました。
そして2020年3月、日本のご家庭用100V電源に最適化された改良版破砕機
「Shredder For Around 100V」を完成させました。
2020年5月、海岸清掃でアルミ缶とプラゴミを拾い、アルミ缶から金型を、プラごみは破砕して金型に流し、PE製のバングルを作ることに成功しました。
これにより、海岸清掃で収益を得るモデルに着手できたと言えます。
2021年8月、電源が100Vである日本その他の国に向けて、ダイナミックラボオリジナルのシュレッダーV2の全ての設計図とデータ、部品リストをオープンソースとして公開しました。
その間も、鎌倉・海のアカデミアチームへのインジェクションマシンと金型の技術提供、JICAでの展示、大分・エコブルーチームへのインジェクションマシン製作協力、逗子アートフェスティバルへの機材提供、ミクロネシア連邦コスラエ島への技術提供、京丹後市のPrecious plastic立ち上げなど、Precious Plastic の普及活動をたびたび行なってまいりました。
だんだんと活動の幅が広がってきたことと、海外の実践者と連携を取った方が学びが多いことを理由に、このたび
Precious Plastic Japan を立ち上げ、より本質的なプラスチックの理解と利用の視座を共有する活動の礎とすることにいたしました。
また、映像作家の Manabu Togawaさんが、テンダーと precious plastic japanのインタビューをまとめてくださっています。
1-b. PPJの日々の活動はインスタグラムにて!
コメントをくださる海外の方々の活動も見所です。ぜひ
フォローを!
2. Precious Plastic Japanの目的
2-a. 前提1 ゴミはなぜゴミなのか
昨今では、プラゴミやマイクロプラスティックのことが盛んに報じられています。そしてプラスティックが害悪をもたらす物質であるかのような報道がされています。
確かにマイクロプラスティックが引き起こす問題や、地球温暖化への寄与など、たくさんの問題が発生している状況ではあることに違いはないと私たちも思うのですが、そういった言説に無思考に同調する前に、ひとつじっくりと考えてみたいのです。
そもそもゴミとは一体なんなのでしょうか?
私たちが考えるゴミの定義とは
「直面する当人にとって、価値が見出されなくなったもの」です。Precious Plastic 創始者の Dave Hakkens氏がプラを個人でも再利用できる技法の共有プロジェクトを立ち上げ「Precious = 貴重な」と冠したのも偶然の一致ではないでしょう。
そこで、私たちはさらに考えを進め、アルミゴミから金型を作り、その金型に溶かしたプラゴミを射出することで、商品を量産することに成功しました。
アルミの金型は、日本の市場では
50万円〜100万円くらいする代物です。その金型製作のための材料を、拾ってきたものだけで達成したことになります。アルミゴミから金型が作れるということは、たとえばアルミ缶を一缶100円で私たちが買い取っても損はないということです。(実際にやるかどうかは経理書類とにらめっこして決めますが)
一缶100円でアルミ缶を買い取れば、進んでアルミ缶を拾う人たちもいるでしょう。つまりは、アルミゴミがもはや
「価値を見出されなくなったもの」ではなくなったということです。
さて、ゴミ問題を解決するために、我々が誰も不幸にせずに達成可能な方法は何でしょうか? 人々の胸ぐらを掴んで環境問題を説明することでしょうか? 企業にCSR活動の予算を例年より多く割くよう働きかけることでしょうか?
それとも、
人々が望んで目の前のゴミを拾いたくなったり、そもそも捨てたくないと思える仕組みを作ること、でしょうか。
2-b. 前提2 プラスティックとは何か?
そもそも、プラスティックとは何でしょうか。現代の日本では
プラ製という言葉が「大量生産の」「チープな」「使い捨ての」といった語の代名詞として使われることすらあります。
ところが、プラスティックの元の言葉はギリシャ語の「プラスティコス」であり、
プラスティコスとは「可塑性のある(=自由に再成型できる)」という意味なのです。
自由に再成型できる素材であれば、そもそも捨てる必要すらありません。ゆえに私たちは、PPJの活動を通してプラスティックをプラスティコスに戻していく、という視点を持っています。
2-c. 目的1 プラスティックを使わない意味、使う意味
「プラ製品は使わない方がいい」
こんな発言をする方にたびたび会います。それはもちろん選択できるならそうであり、かつその方は選択の自由が効く裕福さを持っている状況だとも言えます。
「プラ製品は使わない方がいい」発言の意図は、これから新しく石油を掘ってプラ製品は作らない方がいい、ゆえにその構造を後押しするプラ製品の購入はやめた方がいい、という意味として私たちは捉えています。
しかしこの話は未来に対して負債を残さないという視点において機能するものであり、現在地表に出回ってしまっている大量のプラゴミをどうにかする、という視点が全く含まれていないのです。
要するに、プラスティックを使わないという選択は未来への投資の話であり、すでに地下から掘り起こしてしまったプラスティックをどう使うかは過去の精算の話、ということになります。
話は変わりますが私(ダイナミックラボ代表・テンダー)は、かつて北米先住民技術を学びました。人類が現在持っている最も持続可能な技術は先住民技術であり(なぜなら1万年以上伝承されている技術である=1万年間地球を壊さなかった技術である)、それ以上持続可能な技術は現在人類にはありません。
ところが、そんな万能に思える先住民技術にも、2つないものがありました。
プラゴミの処理方法と、核のゴミの処理方法です。
つまりは現代を生きる我々が、大量に地表に引っ張り出してしまったプラゴミをどうにかする方法を確立しない限り、プラゴミに関する先住民技術は生まれ得ず、大量のプラゴミが次世代にそのままスルーパスされるだけのことなのです。
よって私たちの答えは簡単です。
「新品のプラ製品を買うのをやめて、もし必要なものがあれば、プラゴミから作ればいいんじゃない?」
2-d. 目的2 PPJが認識するプラスティック再利用の5原則を共有する
往々にして日本国内のプラリサイクルの活動では、たとえばプラゴミをレジンで固めてアクセサリーを作ってしまったり、やる前より素材の可能性が減ってしまう(=それ以後リサイクルできなくなる)活用が見受けられます。
そういったプラの本質的ではない再利用方法に対して、私たちは自分たちの指針を公開します。以下に未完成のリストを列挙します。
1. 同じ重さあたりの、プラスティックの表面積をより小さくすること
たとえば
- レジ袋1000枚を野晒しにして、それぞれが海まで流れていく確立と、
- レジ袋1000枚を加熱圧縮したひとつの塊(ブロック)を野晒しにして、それが海まで流れていく確立と
この二者を比べれば、はるかに後者の方が環境に流出しづらくなります。軽く・表面積が広ければそれだけ動きやすく・破損および摩耗しやすくなり、マイクロプラスチックの発生につながります。
2. 紫外線と摩耗の劣化が少ない用途に変えること
たとえば、プラゴミから実用のためのスケートボードの板を作れば、それは極めて摩耗しやすい用途のため
「環境にとってはやらないほうがマシ」の可能性があります。(コンセプチュアルな展示用であれば良いのですが)
紫外線に弱いポリプロピレンなどで家の外装材や屋外のベンチを作ったりも、もともとのプラゴミ→廃棄→焼却処分よりも、マイクロプラスティックの分散につながる可能性があります。
プラスティックが紫外線にさらされることにより、メタンなどの温室効果ガスが発生する、というハワイ大学の研究があります。
https://www.afpbb.com/articles/-/3184681
3. プラゴミを海面よりも高所へと移動すること
エントロピー経済学という学問の中に、生命エンジンという概念があります。
四つ足の生き物は低位(海水域など)の生き物を捕食し、より高所で排泄することにより、ミネラルが低位である海から高所へ戻っていく、というものです。
(ミネラルは金属であり重いので、勝手に高所へ戻っていくことはない)
命は集め、濃縮します。あらゆる生命が、自分にとって必要なものを集め・体内で濃縮し、排泄します。
PPJの母体であるダイナミックラボはファブラボ(fablab)であり、ファブラボはその設立に、生命の模倣という思想を持っています。
命が集め・濃縮するのと同じように、私たちもプラスチックを集め、濃縮し、より低位(海底)まで流さぬよう、より高所へ持っていくこともできるはずです。
4. かつ対腐敗性能・防水性能が求められる用途だとなお良い
そして、プラスティックで何かを作る際は、
「それ、竹で作れば良くない?」という質問を超えていけるものが、なお良いと思います。
具体的には、耐水・防水用途であること、耐腐敗性能が求められる用途などが条件だと考えています。例えば、バイオトイレ自体や、トイレの屎尿分離槽など。
5. ポリスチレン(PS)や、塩ビ(PVC)など、毒性が疑わしきものはなるべく使わない
プラスティックには毒性が疑わしいものが多々あります。
PPJでは、毒性が疑われるポリスチレン(PS)、塩ビ(PVC)、ABS等は使いません。
比較的安全であると言われているポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、PETを使いますが、それすらも添加物の危険性を排除できるわけではないので、できる限り
防毒マスクなどの装備をして作業に当たることをお勧めします。
2-e. 目的3 過剰なものから、世界に足りないものを作る
電気と水とプラスチックの3つには共通するものがあると私たちは考えています。
それは「人々が好きすぎて、生産しすぎて、大量に市場に出回り価値が希薄になったもの」です。自分たちの生存を脅かしても生産をやめられないほど、好きなもの。
腐らず・軽量で・安価で・簡単に成型でき・色も変えられ・硬さも変えられ・人体にもほぼ無害(PP・PE)な物質は、おそらく人類の憧れだったことでしょう。これまでに不自由のなかったものも全てプラスティックに置き換えんばかりの勢いで、暮らしのプラ化が進みました。
ゆえに大量にダブつき、価値が見出されなくなったものが現状のプラスティックです。
要するに、プラ製品は市場に過剰なために価値がないのだから、Precious Plasticによってリサイクルしたところで、製作物が市場に過剰なものであるならば、構図は何も変わりません。
ゆえに問いが必要で「
世界には今何が足りていないのか」
そして、それはおそらく、もはやモノではないのだと思います。
「対話」かもしれません。「遅さ」かもしれません。「深く考えること」かもしれません。「筋金入りの多様性」かもしれません。
そういった
ふるまいを促すためのモノは何でしょうか?
そこに Precious Plastic の次の段階があるように私は思います。
2-f. 目的4 プラスティックを悪とする視点から前に進むこと
私たちが、自分たちの生存を賭してすら生産をやめられない、電気、水、プラスティック。
しかし、そのどれをも欲したのは私たちであり、電気や水やプラスティック自体が、自分たちを使うように売り込みに来たわけではないのです。
さんざん夢中になり、肯定して遊び尽くし、害があるとわかれば悪者扱い。
私には原発に対する姿勢と同じように見えてなりません。(工業的な水の汲み上げにも似た問題があるように思います)
仮に現在のプラスティックの問題が解決したとしても、「悪者を作る姿勢」からは、今後第二第三の「プラスティック的な問題」がまた起こるだけだと思います。
「誰が悪い」「何が悪い」ではなくて、強いて言うなら悪いのは私たちの見通しのなさ、魅力に飛びついてしまう原始的な脳の構造なのです。
とはいえ、自分たちの脳とは一生付き合っていかざるを得ないので、どうすれば誰かに負担を強いることなく、大勢が心から望んでプラスティックに向き合っていくことができるか、に取り組んでいく必要があるのだと思います。
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- PPJの母体であるダイナミックラボは、少人数で運営している非営利法人です。無限のサービスを期待しないでください。
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4. Precious Plastic Japan (ダイナミックラボ)メディアへの掲載等
2021.3/25 読売新聞(precious plastic tango)
2019.3/15 南日本新聞
2019.2/2 テレビ朝日「スーパーJチャンネル」
2018.9/10月号 日本環境教育フォーラム機関誌「地球のこども」
「地球のこども」| プレシャスプラスチック・プロジェクト – 記事全文